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バーチャルオフィスで法人登記はできるのか?
以前「バーチャルオフィス 法人口座」というテーマで記事を作成しましたが、「バーチャルオフィス 法人登記」という検索ワードも目立つので、バーチャルオフィスで法人登記を行う際のポイントなどをまとめていきたいと思います。まず、「バーチャルオフィス 法人登記」と調べると、いくつかのバーチャルオフィスの運営元のホームページにたどり着きます。この時点でバーチャルオフィスでも法人登記ができると安心された方もいらっしゃると思います。バーチャルオフィスで法人登記をすることは違法ではありませんので、そこは安心してください。しかし、法人登記というものは一生に一度するかどうかということにも関わらず、なかなか手順が面倒でややこしいものです。当然のことですが、バーチャルオフィスを決めても法人登記は完了しません。そこで、今回は新規法人の設立を検討される方が法人登記を行うまでの手順を6つに分けて解説していきたいと思います。
手順1.バーチャルオフィスと契約する
「バーチャルオフィス 法人登記」と検索された方の中には、法人登記をいち早く行いたいと焦っている方もいるかと思います。しかし、手順を間違えると様々なトラブルのもとになります。しっかりとした手順で法人登記の準備を進めましょう。
ポイント1.バーチャルオフィスと契約しないとその住所は利用できない!
まず、バーチャルオフィスの住所を利用して法人登記をする場合、バーチャルオフィスと契約していなければなりません。法人でバーチャルオフィスを利用するためには、先に法人登記をしてからバーチャルオフィスと契約をしなければならないと思っている方もいらっしゃいます。しかし、これは完全に手順が逆です。引っ越しの場合で考えるとわかりやすいかと思いますが、先に住民票を登録してからどの物件に住むかなどを検討する方はいないかと思います。住民票を登録するためには、物件を選び、その物件に住む賃貸借契約などを締結し、その契約が成立したのちにはじめて住民票を登録することが出来ます。住んでいない物件はもとより、賃貸借契約すら締結していない物件に住民票を移したら大問題になります。この手順は間違えないようにしてください。
○ | バーチャルオフィスと契約する → バーチャルオフィスの住所を利用して法人登記を行う |
× | バーチャルオフィスの住所を利用して法人登記を行う → バーチャルオフィスと契約する |
なお、もしかすると契約成立前から住所を利用することを認めているバーチャルオフィスもあるかもしれませんが(正式に認めていなくてもこの辺の対応が曖昧なケースも含む)、そのようなオフィスは警戒したほうが良いと思います。これは個人的な見解ですが、安易に住所利用を認めるオフィスには、審査などが厳しいオフィスに入会できない反社会的な活動を行う法人が群がることが想定できます。もちろん、このようなオフィスの住所を利用してしまうと、法人口座の開設などが難しくなってしまう場合もあります。少し手間に感じるかもしれませんが、しっかりとした手順を踏まないと住所利用ができなかったり、入会にあたっての審査がきっちりしているバーチャルオフィスを選ぶことが自分の事業にとってはプラスになってくると思ってみてください。
ポイント2.バーチャルオフィスと契約する際の注意点
次に、バーチャルオフィスと契約する際の注意点です。先ほど少し触れましたが、バーチャルオフィスを選ぶ際には入会審査などがきっちりしているオフィスを選んだほうが良いという話をしました。「審査なしですぐに契約できる」、「利用料金が安い」などといった安易な理由で選ばないように気を付けてください。
さて、バーチャルオフィスと契約する前には3つのことを実践してください。
①借りる住所について調べること
1つ目は、バーチャルオフィスから借りる住所について調べることです。ネットなどで住所を検索して反社会的な活動に絡んでいるなど、何かマイナスな情報が出てきた場合は気を付けたほうが良いです。同じ住所を使っているだけで同じグループとして認識されてしまう場合があります。銀行で法人口座を開設しようとした際にも不利に働くこともあり得ますので必ず調べましょう。また、法人として事業を行っていく場合に、取引先からその住所を調査される場合もあるということも考えましょう。住所は重要なステータスにもなりますので、その点も意識してバーチャルオフィスを選ぶこともおすすめします。
②必ず見学に行くこと
2つ目は、必ず見学に行くことです。居住地を決める際、物件を見学せずに居住地を決めることはないと思います。たとえ住所を利用するだけの目的であったとしても、その住所がある場所はもちろん、バーチャルオフィスの運営元についてはしっかりと知っておく必要があると思います。住所を利用すれば郵便物が届くことになりますが、その郵便物に関するサービスも調べておくとよいでしょう。直接足を運ぶことでバーチャルオフィスの運営元の本当の姿が見えてくるかと思います。
③同じ名称、類似の名称を利用する法人が先に利用していないか確認すること
3つ目は、同じ名称、類似の名称を利用する法人が先に利用していないかを確認することです。法律上、同じ住所に同じ名称の法人は登記できませんので、法人名として検討している名称があれば、契約までにバーチャルオフィスに確認したほうがよいでしょう。また、法律上は問題ないケースでも郵便物の受取に支障をきたすケースもあります。例えば、「株式会社東京バーチャルオフィス大辞典」と「東京バーチャルオフィス大辞典株式会社」が同じ住所に登記することは法律上可能ですが、ほとんど100%郵便物の受取に支障があるということがお分かりになるかと思います。もっと言えば、ここに「東京バーチャルオフィス大辞典」という屋号を使用される個人事業主の方も住所を利用することが出来ますので、名称の管理が甘いバーチャルオフィスを選ぶと、後悔することになりますのでお気を付けください。
手順2.定款を作成する
バーチャルオフィスと契約を結び、利用する住所が決まったら法人の設立作業に入ります。登記の前にやるべき大きなことは定款の作成です。定款には下記に示す14点を記載する必要があります。記載項目を表にしましたので、ポイントともに参考にしていただければと思います。
記載項目 | ポイント | |
1 | 商号(法人名) | ・同じ住所で同じ商号は使えないのでバーチャルオフィスの運営元に必ず確認! |
2 | 目的 | ・許認可が必要な事業は正しい事業目的を記載! |
・将来的に行う可能性のある事業は幅広く書いておくほうが便利! | ||
↑ただし、銀行での法人口座開設にあたって、何がメインなのかを明確に! | ||
3 | 本店の所在地 | ・「本店の所在する独立の最小行政区画」まででOK! |
↑(例)東京都千代田区~まででOK(千代田区内でオフィスを引っ越しても変更の必要なし) | ||
4 | 公告 | |
5 | 発行可能株式総数 | |
6 | 株式の譲渡制限 | |
7 | 取締役の員数 | |
8 | 取締役の任期 | |
9 | 事業年度 | ・決算を何月にするかを決定 |
↑消費税の免税期間を一番長くとれるように1期目を長く設定することがおすすめ | ||
10 | 設立に際して出資される財産の価額 | |
11 | 設立後の資本金の額 | |
12 | 最初の事業年度 | |
13 | 設立時の役員 | |
14 | 発起人の氏名、住所等 |
手順3.定款を公証役場で認証してもらう
定款を作成したら公証役場で認証してもらう必要があります。そもそも「公証役場ってどこにあるの?」という方も多いかと思います。ここでは東京都にある公証役場をまとめるとともに、認証の方法も簡単に整理しましたので参考にしてください。
①東京都にある公証役場一覧
定款を提出すべき公証役場は「会社の住所(本店所在地)と同一の都道府県にある公証役場」になります。東京都のバーチャルオフィスと契約した場合、東京都にある公証役場であればどこでも提出が可能です。東京都の公証役場一覧のリンクを貼り付けましたので、参考にしてください。
②認証方法
定款の認証方法は、通常の認証と電子認証の2つがあります。電子認証を行うと印紙代4万円が不要になる点がメリットではありますが、電子認証を行うために専用の機器が必要になります。こちらは専門家以外の方が行うことが難しくなりますので、自分で認証を受ける場合は通常の認証を受けていただく必要があるかと思います。
なお、定款の作成作業はバーチャルオフィスの契約と同時に進めてもらって構いません。先に書類が出来てからバーチャルオフィスとの契約をすることも問題ありません。ただし、バーチャルオフィスと契約が成立する前にバーチャルオフィスの住所を使うことは出来ませんので、定款の本店所在地をバーチャルオフィスの住所にする場合は、定款の認証を受ける前にバーチャルオフィスとの契約が完了している必要があります。この点だけご注意ください。
手順4.登記に必要な書類を準備する
バーチャルオフィスとの契約、定款の認証が終わったら、次はいよいよ法人登記になります。以下、必要な書類を11点提示しましたが、法人の形態や現物出資の有無などでも必要なものが変わってきますので、実際に設立する際には専門家に確認することをおすすめします。バーチャルオフィスによっては、法人設立にあたってサポートしてくれる場合もあります。その点もバーチャルオフィス選びで重視してもよいかもしれません。
必要書類 | |
1 | 登記申請書 |
2 | 登記免許税分の収入印紙を貼り付けた用紙 |
3 | 定款 |
4 | 発起人の決定書 |
5 | 取締役の就任承諾書 |
6 | 代表取締役の就任承諾書 |
7 | 監査役の就任承諾書 |
8 | 取締役の印鑑証明書 |
9 | 資本金の払込を証明する書類 |
10 | 印鑑届出書 |
11 | 登記すべきことを保存したCD-RかFD |
①登記申請書の作成で注意すべきことは?
定款作成では住所を’東京都千代田区’のように「本店の所在する独立の最小行政区画」までにすることをおすすめしましたが、登記の場合は住所を詳しく登記することをおすすめします。登記はビル名などを外して行うことができるため、バーチャルオフィスを利用していることを知られないように番地までしか登記をしたくないという方もいらっしゃるかと思います。しかし、ビル名を外した場合、郵便物の誤配送のリスクが高まります。特に公的な書類の発送は時期が集中するため、郵便局側での作業ミスも高まり、結果的に郵便物の到着が遅れてしまうというケースも多いようです。郵便物の誤配送を避けるためには、しっかりとバーチャルオフィスの入居するビル名や階、必要があればオフィス名なども登記するとよいかと思います。バーチャルオフィスとの契約時に登記する際の住所表記について確認しておくとよいかと思います。バーチャルオフィスの推奨する住所を登記することが郵便物の誤配送を避けるためには一番良い方法だと思います。
②本社はどこに置くべきか?
本社をどこに置くべきかについては答えはありません。しかし、費用面から考えた場合、東京法務局の管轄区である千代田区、中央区、文京区のいずれかに置くことは一つのメリットだと思います。将来的に本社を移転させる場合、移転登記が必要となり、関係する法務局につき30,000円の費用が掛かります。千代田区から港区に本社を移転する場合、転出と転入でそれぞれ30,000円ずつ費用(合計60,000円)が掛かることになりますが、千代田区から中央区、中央区から文京区、文京区から千代田区に本社を移転する場合は管轄区内のため、転出と転入で合計30,000円しか費用は掛かりません。また、東京法務局の管轄内にある千代田区などはビジネスにおける信頼が高いといわれる地域ですので、住所登記を主な目的としてバーチャルオフィスと契約されるのであれば、千代田区などにあるバーチャルオフィスと契約することはビジネスの上でもプラスになるかと思います。
手順5.法務局に必要な書類を提出する
定款の認証を受ける場合は東京都内にあるいずれの公証役場でも良かったのですが、登記にあたって必要書類を提出する法務局は本社所在地を管轄する法務局で行わなくてはなりません。東京都の法務局の管轄一覧のリンクを貼り付けましたので、参考にしてください。今一度確認になりますが、登記の必要書類は本社所在地を管轄する法務局で行わなければなりませんので、管轄区域を必ず確認しましょう。なお、法人の設立日は法務局に必要書類を提出した日になります(ちなみに入籍日も婚約届の提出日になっています)。何か設立日を特別な日にしたい場合、法務局は土日祝が休みとなりますのでその点を確認したうえで必要書類を提出するとよいかと思います。
手順6.バーチャルオフィスに登記が完了した旨を伝える
バーチャルオフィスの住所を利用して法人登記を行う場合、当初バーチャルオフィスとの契約は個人としての契約になっているかと思います。法人として利用する場合、個人から契約を変更する必要性があると思いますので、そのバーチャルオフィスの契約に基づいて個人としての利用から法人としての利用に契約を切り替えることを忘れないようにしてください。登記簿謄本を提出する場合が多いようです。なお、契約が切り替わっていないと郵便物が受け取れないケースがありますので、住所を利用するバーチャルオフィスに登記が完了した旨を報告するまでが法人登記だと思っていてください。
まとめ バーチャルオフィスで法人登記はできる
最後になりますが、バーチャルオフィスの住所で法人登記をすることは出来ます。違法でもなんでもありません。ただし、手順を間違えると厄介なことになりかねませんので、手順はしっかりと守りましょう。
手順1.バーチャルオフィスと契約する
手順2.定款を作成する(手順1と同時進行でも構いません)
手順3.定款を公証役場で認証してもらう
手順4.登記に必要な書類を準備する
手順5.法務局に必要な書類を提出する
手順6.バーチャルオフィスに登記が完了した旨を伝える(ここまでが法人登記だと思ってください)
さて、ここまで読み進めていただいた方の中には、作業が多すぎて法人登記をあきらめようと感じた方もいらっしゃるかもしれません。基本的に一生に一度経験する人のほうが少ないであろう法人登記に多くの時間を割くのはあまり良いこととは言えないかもしれません。そこでおすすめしたいのはバーチャルオフィスの中で法人登記のサポートが受けられるオフィスを選ぶことです。法人登記のサポートを受けることで利用料金が高くなることもあるかと思いますが、おそらく個人で専門家を見つけて依頼するよりは価格を抑えることが出来るかと思います。何より本業に割く時間を確保できるといったメリットも大きいと考えられ、初期費用を抑えたい方にとっても長い目で見ればプラスになることが多いのではないでしょうか。バーチャルオフィス選びの一つの選択肢にしてみてはどうでしょうか。
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