近年ではごく少人数で、場合によってはたった1人で事業を興し、ビジネスの世界における成功を目指す人が増えてきました。これには法令の改正によって法人を設立しやすくなったなどの背景があると言われていますが、さまざまなコミュニケーションツールの発達によって個人でもフリーランスで仕事がしやすくなったという事情も関係しているとされています。ただ、すべての分野において少人数でも起業しやすい条件が整ってきたかといえば、そうとは限らないのが実情です。既存のビジネス環境の中には、スモールビジネスを始めるに当たっての参入障壁となるような事例も存在します。その1つが、オフィススペースの確保です。
企業や個人にとってのオフィスはビジネスの拠点であり、日々の業務を行う場所です。それと同時に、社会的信用を得る場でもあります。たとえば東京の千代田区と言えば世界的な一流企業などが数多く本社を構えるビジネスタウンであり、千代田区にオフィスがあるということはそれだけで顧客の信用度もアップします。しかし、千代田区のオフィスはステータスの高さに合わせて賃料水準も高く、小規模な事業者、ましてや起業して間もない事業者が自らの資金力に合ったオフィスを確保するのはなかなか困難です。たとえ無理をして高額な賃貸オフィスに入居したとしても、その賃料が負担となって業績を悪化させるようなことになってしまうのは問題です。また、個人事業主にとってはさらにハードルが高くなります。ステータスの高い賃貸オフィスの中には、「契約は法人に限る」という条件が課せられているところも少なくないため、入居可能な物件を探し出すだけでも大変です。
こうした課題を解決してくれる手段として注目を集めているのが、バーチャルオフィスです。これは、物理的なスペースを賃借するのではなく、「所在地」のみを借りることのできるサービスです。バーチャルは、「バーチャルリアリティー（仮想現実）」などでおなじみの「仮想の、架空の」などという意味を持つ言葉ですが、バーチャルオフィスを利用すればその名の通り「仮想の事務所」を創出することが可能になります。このサービスの具体的な仕組みは次の通りです。まず、企業や個人がサービスを提供している事業者と契約します。すると事業者は、その利用者の名を掲げた表札等を自らの事業拠点に掲げます。そして、郵便物や宅配便などの受け取りを代行する体制を整えます。こうすることで、利用者はその事業者の事業拠点を自らの事務所所在地として対外的に標榜することができます。つまりその事業者が千代田区に本拠を構えていれば、利用者が実際にはどこで事業を行っていたとしても「千代田区にオフィスがある」と主張できるということになります。
物理的なスペースを占有するわけではないため、バーチャルオフィスの利用料は通常の賃貸オフィスにおける賃料に比べると非常に安価です。そのため、小規模な事業者でも十分支払い可能な範囲で、名だたるビジネスタウンにオフィスを「借りる」ことができます。さらに、現実のオフィススペースが存在しないわけですから、当然ながらデスクやロッカーといった調度品をそろえる必要がなく、コピー機などを設置する必要もありません。もちろん、内装工事も不要です。こうしたことから、バーチャルオフィスの利用は事業を行うに際してのイニシャルコスト、ランニングコストの両方を節減するのに役立ちます。
また、このサービスはそもそもオフィススペースを必要としない事業者にとっても、非常に合理的なサービスです。近年はいわゆるeコマースの普及により、インターネット上ですべての業務が完結するタイプのビジネスも増えてきました。こうした事業に携わっている個人事業主の中には、自宅のパソコンのみが事実上の「事業拠点」であり、他にオフィスは不要という人も少なくありません。このような人たちは、このサービスを利用すれば自宅とは別の場所に仮想のオフィスを持つことができます。仕事とプライベートの区別をはっきりさせたいという要求に応えることができますし、たとえばひとり暮らしの女性が起業する場合などの場合に、自宅の住所を事務所所在地として公開したくないといった、プライバシー上の懸念も解消することが可能になります。
バーチャルオフィスにはさまざまなタイプがあり、事業者によっては住所を貸したり郵便物を代理で受け取ったりする他にも独自のサービスを提供しているケースもあります。その1つが電話代行で、仮想の事務所にかかって来た電話にオペレーターが代理応答し、メッセージを預かります。たとえば遠く離れた他県で事業を行っているが千代田区の電話番号が欲しい、といった需要に応えることができます。また、時には仮想の事務所あてに顧客が訪ねてくるという事態も起こり得ます。こうした場合に備えて、時間借りできる打ち合わせスペースを提供している事業者もいます。
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